第108話 待ってろよ

文字数 690文字

「平野先輩とジャグ取りに行った時絡まれたの。まさか帰りまた会うなんて……」
 学校からの帰り道、遥は突然立ち止まる。
「無事で何より」
 望未はさほど気にせず答える。
「ありがとう。それに、ごめんね」
「礼なら……、俺が次の試合で返しておくよ」
 歩を進めず立ち止まったままの遥。
「いつまでも望未君に助けられてて、いけないね」
「……そんなことないよ」
 改まってわざわざ話す遥に違和感が芽生える望未。
「前に颯来君が教えてくれた。中学の時、望未君がずっと陰でやっていてくれてたこと」

 颯来は中学のあの事件の後、なるべく大袈裟にアクションしていた。遥の近くに行くときは大きな声で周知させたり、遥の近くにいる人間にわざと声を掛けたり。
 望未が以前からさりげなくやっていたことだった。颯来は望未のように陰ながらではなく、周知させるべく目立って行った。それは颯来のキャラだから成し得たことでもある。
「望未君、ありがとう。今までずっと支えてくれて。ずっと気にしててくれて。もう大丈夫、野球、がんばって」
 遥は自分が望未の重荷になるのは嫌だった。颯来が言わなくても遥は感じていた、望未の優しさを。そして望未も理解した、颯来があえて遥にそのことを伝えたことも。
「遥ちゃん……」

『一生懸命頑張ってる姿って魅力的よねぇ』あの時の宇佐美の言霊が蘇る。思わず言葉がこぼれる遥。
「ひたむきな望未君の姿が、私……」
「遥ちゃん!」
 望未は遥の言葉を遮る。
「俺、前はピッチャーだったろ?」
「え? あ、うん」
「甲子園に行けたら、県大会で勝ったら、さ、遥ちゃんに俺から投げるから……いいとこに投げるよ……」
「?」
「待っててよ……」
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