第23話 試合はいつだ?

文字数 677文字

 剣道の竹刀も右打者の野球のバットも『振る』のは左手である。勿論右手も振るが、右手はコントロールの役割が大きい。バッティングは腰の回転と左手が力の推進力の源でなくてはならない。颯来には『振る』基本が備わっていた。


「お願いします、颯来とバッテリーを組ませてください」
 望未は中村に懇願する。
「今回は何とか学校内で穏便に済ませたから良かったけど、暴力男が入って滅茶苦茶になったら困るよな」
 宮沢は他人事みたいに言う。
「ちょっとおっかないッスね」
 一年生たちも不安げだ。
「石井先輩だって反対してたし……」
 二年生はなるべく直接否定を避ける。
「……」
 石井は黙っている。
「次の試合は超強力打線の坂月中、エースで四番、噂の彼方〔おちかた〕がいるチームなんです、奴を抑えるのには……」
 望未は言葉を詰まらせる。その言葉の意味を感じてか否か、しばらく沈黙が続く。
「……分かった。先生に頼んでくる」
 中村は決心する。
「ありがとうございます。先輩方も、みんなもよろしくお願いします」
 望未は声を弾ませた。


◆◇◆◇


「颯来! 許可が出たぞ」
「何の?」
「今度の試合、俺の球を受けてくれ」
「いやだよ、応援は行くけど」
「頼む」
「なんで俺が」
「頼む頼む。お前しか捕れないんだ」
「野球知らないもん」
「颯来をグループトークに誘うから、さ。勿論遥ちゃんもいるぜ」
「何? なぜ望未が! 何度となく愉香に阻まれてきた、その秘密の部屋を!」
「ま、その愉香ちゃんと俺と、遥ちゃんのグループだけど」
「愉香のはいい、アイツのは個人のも知っているから」
「招待するぜ?」
「試合はいつだ?」
「……決まりだな」
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