第47話

文字数 544文字

「一本勝ち」
 そのまま四分が過ぎ、次鋒戦を落としてしまう城西。
「後、任せてください」
「すまん、頼んだ」
 小幡は渡してしまった流れを託すように千城の胴に気合のパンチを入れる。
 中堅戦、ここを千城が落とすようなことがあれば、大局は大きく白銀に傾く。
 試合の立ち上がりは静かであった。互いの竹刀の剣先が微かに触れ合う音だけが響く。間合いの攻防だ。
 菱木が自身の刃圏に入ろうとすると、千城がその距離を保って打ち機を外す。
 千城が間合いを詰めれば、菱木が出鼻を挫くべく動作に入る。それを読んだ千城が剣先でしっかり菱木を抑える。
 打ち合わぬまま三十秒が経過する。手に汗握る展開だ。焦って飛び出した方が負ける、誰もがそう感じた。

『スッ』と無造作に千城が間合いを一気に詰める。先にしびれを切らしたのは千城か? そう思われた刹那、
「コテー」
 三人の審判が一斉に旗を上げる。
「小手有り」
 遅れて歓声が上がる。電光石火の小手打ちだ。無造作に詰められた菱木は思わず少しだけ剣先が千城の喉元から外れる、その上がった手元、ほんの僅かに竹刀から覗かせた右籠手をさらっていった。シンプル過ぎるが故の凄さが染みる。
(やっぱ彦はすごい、小手を打てる隙なんてあったか?)
 面を被り、立ち上がって体をほぐす颯来は思わず見惚れる。
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