第91話

文字数 841文字

 遥もマネージャーとしてしっかり選手とも打ち解けたが、先輩マネージャーの平野はこっそり部内の彼氏ができたらしく最近釣れない。代わりに練習後に時々来るようになった宇佐美と仲良さそうにしている。
「ね、来生君背番号2取れた?」
 ソフト部の練習は終わったようだが、宇佐美はまだ着替えていないジャージを羽織った姿だ。
 一年生たちがトンボをかけているグランドを横目に、ベンチ内の荷物をまとめる遥の横に腰を掛ける宇佐美。
「うん、今日背番号発表だったの」
「そっか、やったじゃん……良かった」
 その表情を見つめる遥。それに気付いた宇佐美は、
「ね、遠野さん」
 遥に向かって同意を求めて微笑む。
「え? あ、うん。そうね」
「私もレギュラー取ったよ、正捕手」
「わぁ、おめでとう」
「へへ、ありがと」
「すごいなぁ、宇佐美さん。クラス委員で勉強もスポーツも完璧って感じ。羨ましい」
「良くないわよ。見て、この日焼け。男っぽさが増していくばかりよ。女としてはもっとこう……少し、隙があった方がいいのよね……羨ましいのはこっちよ」
 語尾はほとんど聞こえない。
「?」
 遥のこの『解っているのか、いないのか』、これが心配を他所にやきもきさせる。それでいて悪意のないところがもどかしい、じれったい。

「ね、遠野さんてさ、来生君の事どう思ってるの?」
「え?」
「一生懸命頑張ってる姿って、魅力的よねぇ」
「……うん」
「私、来生君の事が好きだったんだぁ」
「……」
 無言の遥に対し、目を見る宇佐美。
「……だった?」
 宇佐美に押される格好で、遥は沈黙のままではいられない。
「そ、過去形……。振られちゃったの、私」
「え?」
「私の方がいい女だと思うんだけどなー」
 宇佐美は立ち上がっていてその真意は掴みかねる。泣いているのか、笑っているのか、冗談なのか本気なのか……。宇佐美は言葉を続ける。
「後悔させてやる、って思ったけど……」
 振り返って遥をチラッと見ると、またすぐ前を向く。
「……私を後悔させないでよね、これで良かったって思ってるんだから」
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