第15話

文字数 617文字

 竹刀の剣先が触れ合う距離で、間合いの攻防が行われる。双方、動き回らずジリジリと剣先で相手にプレッシャーをかける。
 颯来の喉元に向けられた千城の剣先が力強い、その構えだけで千城の強さが伝わってくる。颯来は千城の重心、呼吸、目線、その全てに注意を怠らない。颯来の打突距離には半歩遠い。

(恐らくもう半歩詰めた瞬間、奴は打って来るはず)
 このままではらちが明かない。
(奴が打って来るのは何だ? 得意は面打ちとみた、奴が打つその出鼻を挫く)
 颯来が半歩詰めながら、千城が放つであろう面打ちの前に、上がった手元から覗かせる右小手を狙う。
 意を決して颯来が半歩出る、狙い通り、千城は打って出る。

『パーァーン』
 颯来が小手打ちに動くそれよりも早く、千城の竹刀が飛んできた。颯来は小手打ちを止め、辛うじて首をひねって肩で受ける。
(速い!)
 颯来は度肝を抜かれた。颯来の瞬発力、打突スピードは決して遅くない。いや、むしろ中学レベルではない。
(俺が動くのを読んでやがったな)
 そうでなければこの差はあり得ない。しかしスピード勝負では分が悪いようだ。
(なら、パワーと手数で勝負だ)

 先程と同じような間合いの攻防。颯来は今度も後半歩の距離でわざと大きく呼吸を吸い込み、右足で踏み込むフェイントを入れる。
 剣道では打突時に発声をしてアピールをしなければならない。そして人は息を吸い込んで力を溜め、それを放つ。つまりは呼吸で『深く吸う』ことは打つ前兆を意味する。
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