第22話

文字数 567文字

『カキーン』
 颯来は四、五球打って見せる。
「もっとスピード上げろ」
 しかし颯来はものともしない。
「来生、変われ。キャッチャーはなし、全力で」
 望未が投げる。

『カキッ』
 バットには当たったが、打球は前に飛んでいない。しかし見ている一、二年生から歓声が上がる。
「ニャロ、速ぇーな。もう一丁!」
 颯来が負けず嫌いを出す。
「いや、次、変化球」
「……」
 不服そうな視線を向けるも、中村は目も合わせない。颯来は黙って打席で構える。

「お、何だー?」
 空振りしながら大声を出し、バランスを崩す。
「クイッってなったぞ? 捕るのと違うなチクショー、もう一球」
 望未がもう一度投げるもバットにカスるのが精一杯で前には飛ばない。
「ニャロメ」
 再び構える。

(こいつは……)
「君、野球経験……有るわけないよね」
 思わず中村が颯来に声を掛ける。
「……打つ方だけやったことあるッス」
「おい、中村。まさかこんな奴、本気で入れる訳じゃないよな?」
 ずっと側で見ていた石井は黙っていられない。颯来の方も『こんな奴』扱いされていい気はしない。
「おー望未。そろそろ俺は行くぞ。何か嫌われてるみたいだし」
 颯来はそう言ってサッサと帰ってしまう。



「石井……さっきの来生の速球、初見でしかも野球経験なしで当てられるか? 打席で見たろ?」
「……」
「俺が受けてる時より、速かったな……」
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