第97話

文字数 428文字

「入ってないけどな」
「一本だろ」
「いやいや、お情けだよ」
「嘘つけ、悔しそうしてたじゃねぇか」
「全然」
「地団駄踏んでたし」
「床がブカブカになってないか足で踏んで確かめてたんだよ」
「『やられた』って顔してたし」
「一本勝負だから、その後はオマケなの」
「……ニャロ」
 負けず嫌いも大概である。



「三本勝負だろ、普通」
 そう言って颯来がふざけて千城の面を叩く。
「四分過ぎてんだろ」
 千城もやり返す。
「三分五十八秒だったな」
「残り二秒なんだな?」
「お、認めるんだな?」
「もう一本残ってる訳だ」
 そう言うと千城は颯来の面をきれいに打ち抜く。
「はい、勝負あり」
「彦、きたねーぞ」
 颯来が打ち返す。ヒョイと躱す千城。二、三度竹刀を振るも避ける千城。
「ンニャロメ」
 堪らず颯来は籠手で千城の面を小突く。
「何すんだよ」
「何だよ」
 揉み合う二人。

「何やってんだー? もう完全下校だぞ」
 見回りの教師の声がした。
「はーい。もう帰りまーす」
 二人の返事はわだかまりもなく澄み渡っていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み