第139話

文字数 744文字

 プレーが再開される。柳沢は制球力がある、初球をストレート外角低めにストライク。
(よし! 初球ファーストストライク。これで優位に進められる)
 望未は祈るような初球であった。ここまで四打数無安打、エラーで出塁のみの六番セカンド和田。さっきのエラーと言い、今日のキープレイヤーであるとも感じていた。
 二球目も外へカーブ、三球目外へストレート。四球目を真ん中やや内に入った低めのボールに落ちる球。
 和田はこれを引っ掛けてショートにゴロが飛ぶ。
(打ち取った!)
 望未は一瞬、緊張から解き放たれた。しかしアウトを取るまでは油断ならない。満塁である、走者は全員走っている。守る側は一番近い塁でアウトを取ればいい。
 
 一塁走者の里見はセカンドへ必死に走る。里見としてもここで一点、どうしても欲しい。当たりが悪いのは見なくても分かっている、二塁ベースだけを見てひたすら走る。ぬかるんだ土に足を取られて、つんのめるようにヘッドスライディングで二塁ベースにしがみつく。
 胸を打って呼吸が苦しい。指も痛い、スライディングの時に突いたのか、デッドボールなのか、それがどの指だったか。ひんやりと気持ちよい雨と寝ころんだグランドが心地よく、すぐに立ち上がれなかった。


 ボールの行方は……。
 打球をキャッチしたショートの中西、一点もやれないと思う気持ちがその判断を誤らせていた。まさかのバックホーム返球。

(ならばここでアウトを取るしかない)
 ブロックはできない、返球のタイミングは追いタッチになるのは確実だ。
 ボールが返ってくる。望未がキャッチする。ランナーが望未の横を抜ける。
(ランナーを追っちゃだめだ、ベースにタッチに行く!)
 クロスプレーとなる、泥しぶきが上がる。望未が審判を見上げる、ボールは……落していない。
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