第99話

文字数 546文字

「もう分かっていると思うけど颯来、お前の真骨頂は自分から攻撃することではない。その分野では俺の方が上だ」
「……あぁ」
「でも返し技なら颯来に並ぶ者はいない…………俺以外は」
「おい」
「中学の時、県大会で二本勝ちしなかったのはお前だけだ」
「チョイチョイ自慢が……」
 道着を脱いでパンツと靴下だけの姿もいただけない。
「それはお前にわざと攻めさせたからだ。一本取られてお前は取り返そうと必死だった。俺は二本目を取りにいってお前に返されることを恐れた」
「……」
「得意の攻めを捨て、俺に守ることを選ばせた」
「……何か燃えてきたな」
「……先、帰ってもいいか?」
 千城は着替え終わっている。


「そうだ、颯来。俺これから愉香ちゃんに会いに行くから」
「え?」
「何か問題でも?」
「いや、だって……」
「ふーん……」
 千城に一段上から揶揄されている感じで、颯来の歯切れが悪い。
「颯来が勝ったらって言ったろ?」
 颯来の言えない言葉を千城は先回りで答える。
「ぐ……」
「一緒に行くか?」
「……お疲れ……」
 急いで履きかけていたズボンが、手から離れ床に落ちた。

 千城が愉香の店に行くってことは、颯来と同じ方面に向かうことを意味している。颯来は千城が行ってからしばらくたって部室を出ることにした。
 千城との勝負以上に疲れた気がした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み