第58話 エース

文字数 601文字

 彼方はその打撃に磨きをかけていた。そして里見のピッチングは圧倒的な実力を見せつけた。小柄な里見ではあるが、すでにその存在感、貫禄は彼方と並び異彩を放っていた。

 五回戦。更科高校、里見は五回終わって打者十五人に対し無安打、無四球の完全試合ペースである。しかし大城学園もエース丸田が踏ん張り、被安打四、与えた四球は一つ、失点は二。初回彼方に先制のタイムリーを打たれ、三回にも彼方のバットでの得点である。

 六回表大城学園の攻撃では、セカンドのファンブルによるエラーで出塁し、何とか完全試合は逃れたものの、ノーヒットノーランは続いている。
 そして六回裏は四番彼方からの攻撃で始まる。
 
 バッテリー間でサインが確認されて初球、外角低めに構えるキャッチャー。困った時の外角低めである。問題は球種である。
 ストライクを取るには、空振りかファール、ストライクを見送りさせること、望未は『自分だったら』で配球を考える。
 望未なら『ストレート』を選択する。丸田の速球は145キロ前後出ている、決して遅くない。振ってきても十分負けないボールである。
 バッテリーが選択したのはカーブ。バッターが手を出しにくいコース、且つ初球であることから、『手を出さない、出させない』を狙ったと思われる。
(危ない)
 望未は直感した。見逃し狙いはきっちりコースに入って成立する話である。緩く、少し真ん中へ甘くきたボールは、彼方の格好の餌食だ。
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