第7話

文字数 702文字

「なぁ愉香。夏の総体、遥ちゃん連れて応援に来ない?」
「何考えてるのよ」
 怒ったフリをする。
「何か変わるかもしれないじゃん」
『颯来に他意がないことを愉香が分かっている』ことを分かっている颯来。
「剣道なんて見てたって分かんないのに、無理よ」
「簡単だよ、竹刀が面に当たったとか。後は何て言うかこう、フィーリングでさ」
「フィーリングって言われてもねぇ……ごちゃごちゃしてどっちが誰とかも分かんないんだもん。野球とかなら打ったとか、点が多い方が勝ちとか分かるけど」
「ちぇっ、野球ばっかりヒイキだ。甲子園だって全校応援だったりテレビ中継とか……」
 黙っている望未を肘で小突く。
「んだよ」
 聞いてなかった風に装う。

「じゃあさ、俺が全国大会出場したら見に来るか?」
「いいわよ、行けたら、ね」
 決して額面通りの物言いではない。
「よし、じゃあ、県大会は愉香、お前だけ見に来いよ。全国大会出場の瞬間を見せてやるよ」
「何でそうなるのよ、彼氏でもないのに」
「仕方ないから遥ちゃんとは愉香と三人で望未の応援に行こうぜ」
 愉香の言葉には答えず話を進める。
「ダシに使うな」
 望未も呆れ声を出す。
「何で颯来なんかと、ねぇ」
 愉香も望未に便乗する。その顔は決して否定的ではない。
「……何だよ、愉香が行かないなら、遥ちゃんと二人っきりで行くまで、さ」
 愉香の顔の後ろに隠れている遥へと、横からのぞき込んで声を掛ける。
「ね、遥ちゃん?」
「ダーメ」
 颯来の視線を塞ぐように自身の顔を被せる。
「……愉香、お前、良く見ると可愛いな」
「……」
「黙ってれば、な」
「くぅー」
 顔を赤らめて地団駄を踏む愉香。
『クスッ』と遥が微笑んだのを望未は見逃さなかった。
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