第106話

文字数 720文字

 球場を後にしてバスに戻る道中。応援席から出てくる遥を待っていた望未。

「あれ、さっきは随分だったじゃない」
「あれあれぇ、無視することないじゃん」
 ガラの悪い声の方を見てみると、絡まれているのは遥だ。急ぎ足の遥の前に回ろうとする二人の男。

「止めろよ」
 望未が間に割って入る。
「こういう奴、むかつくねぇ」
「ホント、カッコつけやがって」
 望未の胸ぐらを掴む。
「野球部……殴って見ろよ、ほら」
「……」
「止めて」
 無言で見つめる望未の目、遥の声をきっかけに男は我慢できなくなる。
「何ガンくれてんだ、てめぇ」
 男の右ストレート、それを望未は左腕で流す。横からもう一人の男が殴り掛かってくる。それを一、二歩バックステップして体ごと避けて距離を取る。
「この野郎、舐めやがって」
(まずいな、どうするべきか……)
 遥だけでも逃げられれば、しかし相手も二人いてそう上手くもいかない。乱闘騒ぎはどうしても避けたい。

「なーにしてんの?」
「よう! 大城のキャッチャー」
「……城山中のピッチャーの方……」
「大師! それに……」
 そこには春原と、そして里見、彼方がいた。

「遠野さん、大丈夫?」
 春原は遥に笑顔を向ける。
「友達? じゃないよね……」
 里見は挑戦的な態度で睨みつける。
「俺の連れなんだ。君たちの友達ならさっき帰ってもらったよ」
 言葉とは違い、春原の体格は威圧的だ。
「……」
 彼方は興味無さそうだ。
「チッ」
 二人組は消え失せる。ホッとする望未と遥。
「そこで日下部と会ってさ、俺の顔見たら逃げ出すもんだから」
「日下部!?」
「そ、サッカー部の日下部。さっきの奴らとお仲間みたいだよ」
「アイツ、まだ遥ちゃんを……」
「とんだ逆恨みだ」
「とにかく助かった……大師ありがと」
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