第40話

文字数 613文字

「お前、投手じゃなかった?」
 先輩が声を掛けてくる。
「はい? いや、いいえ」
「二年前の城山中対坂月中……俺、あの試合観てたんだよね」
「あ、……そうですか」
 望未の触れてほしくないところだったが、
「あの後坂月中にボロ負けしたんだ、俺たち」
「じゃあ県ベスト8」
 思わず食いついてしまう。
「多分、うちは城山中より強かったとは思うよ、でも城山が坂月と一番競った試合だったと思う」

「……」
(そう、あの時から感じていた。中村先輩、颯来……彼らがいたからあそこまでできたんだ……。『投手が投げて初めて試合が動く』そう言われて投手として思い上がっていた。受ける人がいるからこそ、なのに。試合全体を常にリードしているのは、捕手だ)

 黙る望未に、その『間』を嫌ってか、私感を述べる。
「そうか知らなかった……あの彼方と投げ合ってたんだから勝手に同学年だと思ってた。あの時二年生とは思わなかったな」
 一人頷くともう一度望未に向き直る。
「あのパスボールがなければ、面白かったのにな」
 一番そこに触れて欲しくない。
「彼、あれが初試合……いや初野球ですよ」
 颯来の名誉のために言う。
「初野球?」
「すごい奴です」
「……で、何でピッチャー辞めたの?」
「彼方に勝つためです」
「は?」
「俺じゃ……俺のピッチングじゃ彼方に勝てないって分かったんです」
「だから後は他人に任せたって?」
「キャッチャーでなら彼方に勝てるかもって。……そのすごい奴を見て」
「……へぇ……?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み