第86話 ちょっと待った

文字数 654文字

 五月に行われる剣道の春大会は、まず県予選から始まる地方大会である。ここで県十六強から順にCシード、Bシード、Aシードと夏の大会が有利に進む。実質、地方大会本戦はお祭りみたいなものである。
 秋の新人戦では新レギュラーで臨んだものの、準決勝で米原率いる白銀高に敗れる。高宮が新しい主将となった新チームは和気藹々としていて雰囲気は良い。しかし全国大会団体戦優勝には黄色信号を感じた千城だった。

 春休みに春大のレギュラーが発表される。先鋒高宮(三年)、次鋒椎名(三年)、中堅未咲(二年)、副将板谷(三年)、大将千城(二年)、補欠に三年根岸、二年板倉、これは秋の新人戦のメンバーと変わらずであった。
 全国優勝を狙う千城は、このオーダーに不満があった。基本的に夏の大会は『三年生最後の夏』というのもあって、三年生に情けが掛かるのは致し方ない。
 しかし春大会は夏のことも考えて、純粋に『実力』で決めて良いと思っている。千城からすれば二年の板倉は必要な戦力である。
 この千城の不満が、先輩たちの耳に入っていることを千城本人は知らないはずだ。

 その一方で千城は顧問の先生に超絶の信頼を得ている。敢えて千城贔屓をしている様にも思える。
 千城は新入学生の部活動紹介での剣道部の紹介を任された。三年生を差し置いて、これは異例の抜擢であった。これには女子剣道部発足という学校側の思惑も絡んでおり、全国優勝者であり、成績、ルックスなどの観点からも千城が適任とされた。
 これもまた三年のやっかみの種となり、千城は三年抜きで計画を立てた。
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