第89話 バッテリー

文字数 737文字

 新しい大城学園野球部は仙波を新キャプテンとし、団結力の有るチームに育った。戦力ダウンは否めないが、幅を利かせていた体育科が抜け、良い意味でのびのびしている。
 そんな中、望未は三年生たちが引退した後もずっと『特訓』を続けていた。キャッチャーというポジションは意外と走る。ファーストのカバーに走ったり、立ったり座ったり。
 ボールを後ろに逸らさないことは投手の、チームの信頼の証でもある。キャッチャーとして大切な『特訓』であったことに気付いたからだった。そのことに後から気付いた望未は、先輩たちに感謝していた。



 秋季大会ではまさかの初戦敗退。春原は五回途中、四失点で降板している。里見と投げ合い、音に聞こえたはずの春原はその評価を落とした。しかし練習中に前足となる左足首に打球を受け、完治せぬままの登板であったことは知られていない。
 そしてチームは得点力の無さが浮き彫りとなる。また練習で手応えを感じ始めていた望未と春原も、まだバッテリーを組むことは叶わなかった。
 秋大会以降、春の選抜出場三十二枠に入る見込みも無く、夏の甲子園を目指してきた。
 もう冬の内に諦めはついていたはずなのに、春の甲子園球場の中継が流れると、そして更科高校、彼方の名が紙面やニュースで聞こえる度、望未の心はザワついた。
 更科高校、春の選抜高校野球ベスト4である。彼方を抑えなくては夏の甲子園はあり得ない。

 夏の予選が始まる前には県外の他校との練習試合を多くこなしていた以前とは違い、進学校へと生まれ変わった大城学園はひたすら練習の日々であった。
 昨年、そのレギュラーのほとんどが三年生、最後の体育科が抜けた大城学園は、四強であったがもうすでに過去の強豪校となり、県下の他校からマークを外されていたのだ。
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