第150話

文字数 531文字

 あの時と同じ静止画の世界、さっきと同じくシーンが切り取られたように颯来には細部まで見える。千城を竹刀ごと手繰り寄せ引きずり込む、体を入れ替えれば千城も成す術もない。
(このタイミングで竹刀を切り離せば……)
 世界が動き出す。瞬間、颯来の目に映った、いや映らなかったあるはずの千城の右手。
 竹刀を放す、この瞬間、あり得ない芸当をやってのける千城に舌打ちをする。しかしどうであろうが竹刀はまだ離れていない。
(このまま引き込んで、崩れたところを打つ!)
 ラストチャンス、颯来にはもうこれしかない……。


***


 九回裏、二対二。決勝戦進出を掛けた大詰めの場面。令成大付属高校の攻撃。一死一、三塁のピンチを迎えている。
「望未、焦るなよ」
 スタンドから見守る颯来。側には愉香もいる。


 春原は五回を投げて無失点。二対〇で迎えた六回、一死満塁と令成付属のエースを攻め立てる。春原の打順で代打となりマウンドを降りた。同時に令成付属も一年生ピッチャーに交代、そこから見事に抑えられている。
「去年の大師を彷彿させるな」
「俺が里見さんで、彼が俺?」
「配役はそうなるな」
「なら、去年の脚本通りこっちの勝ちってことでいいのかな、来生監督」
「もちろんその予定だ」
「……若松君ね」
「覚えておこう」
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