第83話 一番の男

文字数 604文字

「いらっしゃい、あれ?」
「愉香ちゃん、こんばんは。もとい、こんばんも。可愛いね」
「……ありがと。座布団いる?」
「へへ、ほら、早く入れよ」
「?」
 千城の後ろから颯来が入ってくる。

「おっす」
「……おっす」
 お互いバツが悪い。
「あれあれ? 二人ともらしくないんじゃない?」
 しばらくの期間、静観してきた千城はもう我慢の限界だった。普通を演じるのは普通ではない。部活帰り、無理やり颯来を愉香の店に連れてきた。
「何も変わんねーよ、な、愉香、少し痩せたか?」
「……おかげ様で、ね」
『イーっだ』って顔を作る。
「ホント? 愉香ちゃん、どこ? 見せて見せて」
「見せられないとこよ」
 と愉香は苦笑い。
「分かった、足だ、足でしょ」
「やだ、ちょっと、見ないでよ」
 愉香は美脚だ。恥ずかしさで颯来を覗き見る愉香の視線に気付いた千城も颯来の方を見る。

「俺は見てないぞ」
 慌てて釈明する。
「嘘つけ、鼻の下が伸びてるぞ」
「鼻だろ。嘘をついても、鼻の下は伸びん! だから嘘をついていない」
 訳が分からなくなってきた。
「嘘はついてなくても、鼻の下が伸びてることは認めるんだな!」
「ゔっ」
「愉香ちゃん自慢の美脚以外のどこを見て鼻の下を伸ばした? 言え!」
「ちょっと、ちょっと……」
 愉香はボケ倒す二人を訂正のしようもない。

「……胸です」
 颯来の答えと同時に二人愉香を見る。
「ちょっと、胸は痩せてないわよ……大きくも無いけど……」
 胸を両腕で隠す。
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