第148話

文字数 763文字

「延長戦、始め!」
 再び四人同時に立ち上がり、気合が轟く。一分間の延長戦のサドンデスを、勝負が着くまで繰り返される。

 千城が近間にグッと入って颯来の動いたとも言えない剣先の隙間から小手打ちが繰り出される、それを小手すり上げ面で返すも空振り、颯来の打ち終わりを狙って面を放つ千城、その面を受け止め、返す刀で返し胴、竹刀で受け落す千城。
 
 三十秒ほど経っただろうか、歓声が上がる。
「面有り、勝負あり」
 女子の試合は決着がついたようであった。

 中間距離からもう一度小手を狙う千城、それを今度は半歩下がりながら振り被って小手を空振りさせての抜き面、千城は竹刀で横に払いのけて面打ちを被せてくる、颯来は辛うじて竹刀で受ける。
 千城の打ち終わりに体がぶつかって颯来は後ろによろける。千城は追い面を放つ。颯来が千城に押され始めた。
 間一髪、颯来はそのまま腰を沈め、千城の面打ちは空を切る。面打ちをかい潜った颯来は、千城の懐から引き小手を狙う。サッと体を引いた千城、小手打ちは外れ二人に微妙な距離ができる。これを逃さず千城は面打ちを放つ。前に出る千城、下がる颯来。
 千城の面打ちが決まると思われたその時、千城の竹刀は床を叩いていた。
(これで……どうだ!)
 形勢逆転、颯来がやった技は『面切り落とし面』、一刀流の極意とも言われるものだ。この日のための『とっておき』だった。

 交差する竹刀。千城の竹刀は颯来の竹刀により軌道を変えられ、自身の振った勢いをさらに押される形で下へと落される。颯来の竹刀は千城の竹刀の峰を叩く反動のまま面打ちへと向かう。
「グッ」
 唸り声をあげたのは颯来。颯来の竹刀が千城の面に届く前に、千城は颯来へと体を預けた。
 颯来が腕を振り下ろす前に、その懐に入って避けたのだ。
「止め!」
 延長戦の一分が経過した。仕切り直しである。
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