第118話

文字数 537文字

 仕切り直した間合いの差し合いから『打ち間』に入った瞬間、互いに打ちに出る。
「くっ」
「チィ」
 お互い深読み過ぎて上手くいかない。同様の展開が続く。
「思い切って行け」
「考えすぎるな」
「連打連打」
「上下打ち分けて」
 両陣営、この硬直状態に檄を飛ばし続ける。
「根性だ根性」
「ファイトー」
 段々精神論になる。
「しっかりしろー」
「違うの出せよ、違うの」
 右から行こうとすれば左に避ける、左から行こうとすれば右に寄る、『対向者同士のすれ違い』のような、相思相愛、以心伝心する二人の戦いは、必死な当人の側と声援を送る側で温度差を生んだのは否めなかった。

 このまま四分間が経過し、先鋒戦に続き次鋒戦も引き分けとなった。


 二引き分け、どちらも勝ち星がないまま迎えた中堅戦、次鋒戦の泥仕合を吹き飛ばす空気感。
 蹲踞から立ち上がる、気合十分の発声と共に千城は中段、正眼の構えを取る。〔*竹刀の剣先を相手の喉元に合わせる〕
 同様に立ち上がった三島。中段の構えを取るも発声はせず、しっかりと見据える目が、千城の動きを牽制する。
 面の奥から覗かせる三島の表情が笑ったように見えた。そして半歩下がって間合いを取った三島が、ゆっくりと両腕を上げる。その構えに千城は一瞬気を取られた。
「ジョウダンですか……」
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