第46話 天才

文字数 969文字

「礼」
 五人整列しての礼が終わる。白銀陣営のほとんどの人間が千城に視線をぶつける。千城はそれほどのものであった。当の千城は涼しい顔をしている。
 米原もその一人だ。
(ニャロ、お前の相手は俺だ)
 颯来は穏やかでいられない。
 自陣に戻って着座する中堅、副将、大将。千城はいつまでも根に持っている颯来を茶化す。
「小者に思われるぞ」
「フン、ニャロメ、目にもの見せてやる」


「始め!」
 先鋒戦が始まる。先鋒は比較的に小さい選手やスピードのある選手が多い。
 お互い間合いの攻め合いから乱打戦になる。どちらの先鋒も回転が速い。
 四分間、三本勝負の一本目をものにしたいのは誰もが同じである上、両陣営先鋒を取って勢いを付けたいのも当然である。
 スピード勝負で真っ向から打ち合う両先鋒、城西高宮の連打が飯田の体制を崩す、ここぞとばかりに高宮が畳み掛ける。心ならずも下がりながら防戦する飯田。追う、高宮が追う。
 そしてついに高宮の連打が飯田の竹刀を弾く、面の二連打だ。
「面有り!」

「二本目」
 主審の合図とともに試合が再開される。追い付きたい飯田、試合を決めたい高宮。同じ勝ち星なら取った本数がチームの勝敗を分ける。高宮も守りに入らない。その姿勢が飯田に隙を見せない。
 四分が経とうとしていた。飯田は疲れがきたのか、腰が落ちて体制がわずかに乱れる。高宮はここぞとばかりに面に飛び込む。
「胴ぉぉ」
 飯田が高宮の面をかいくぐって、面抜き胴を決める。

「引き分け」
 両者竹刀を収めて自陣へ引く。
「クソッ、すみません、頼みます」
 次鋒へ繋ぐ高宮。いい試合であったが、悔いが残る。
「ドンマイ、次鋒、続け」
 どちらのチームも檄を飛ばす。味方を声援で後押しする。
「始め」
 次鋒戦、再び主導権争いが始まる。落ち着いた雰囲気の次鋒戦。白銀、岸部は体格を活かして重い打ち込みを掛ける、細身の小幡は何とか受け止める。
 鍔迫り合い〔*竹刀の鍔と鍔が重なり合い密着した状態〕になるも岸部は力任せに押し込む。
「コテェー」
 岸部は圧倒的なパワーで小幡を吹き飛ばすと、引き小手を打ち込む。小幡は体制を崩しながらも必死に竹刀で籠手を隠す。
「小手有り」
 城西側はどよめく。小幡は鍔元でかわしたはずだ。誤審に思われた。審判から死角だったのか、いずれにせよ三人の審判の内二人が旗を上げている、判定は覆らない。
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