第38話

文字数 718文字

「どこまで着いてくんだよ」
「ここまで来たら、どこまでも」
「勝手にしろ」

 大城学園の野球専用グラウンド。日もほとんど沈んでいる。二人は古びた金網越しにグラウンドを覗く。
 誰もいない。
 その二人の後ろを走り抜けて止まる影。
「あれ、颯来?」
「おう」
 当たり前のように返事を返す颯来。
「あれ? 遥ちゃん、どうした?」
「……今日は望未、遥ちゃんにパフェ奢れよな」
「は?」
「約束だぞ。行こう、彦」
「あ、おう」
 望未の返事も聞かずに歩き出す。その後ろを訳も分からず追いかける千城。

「……そんな金、持ってねーぞ……」


「なぁ颯来、ひょっとして『遥ちゃん』、待ってた?」
「そ、でもアイツの練習終わるの待つから遅れるって」
「いいのか?」
「マネージャーだからな」
「でも野球部、練習終わってるじゃん」
「……そうだな」
 千城は気付かなかったが、颯来は笑っていた。



「そう言えば颯来、何で三年の時試合に出場しなかった?」
 家に帰った颯来は千城の言葉を思い出していた。

 あの時、遥は颯来に義理があって『側に居てくれている』気がしていた。
(俺、何で遥ちゃんにすぐ告白しなかったんだろう?)
 望未と愉香に遠慮した? 四人の関係を壊したくなかった? 颯来は自分でも分からない。
 だから颯来は飛んだ、『飛べる気がした』。



「願掛け、かな?」
 千城の質問にそう答えた。
「なんだそりゃ」
「これを飛べたらって……」
「飛べたら?」
「……何だっけ?」
「アホか」
「…………。何で俺フロア側から踊り場の方へ飛んだんだろう? 普通踊り場側からフロアの方に飛ぶだろ? そしたら壁にぶつからずに済んだのに……中学生ってバカだよな」
 颯来は思いっきり笑った。思いっきり笑っているのに不思議と可笑しくなか
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