第122話

文字数 549文字

 米原の連続打ちはとにかく手数を出す。上下の打ち分けもスピードも目や勘の良さも申し分ない。けれどもスペースを狙ってどんどん打ち込み、隙ができたところを決めるそのやり方は、力の差があってこそ成立しやすい。
 時間の経過と共に竹刀の動きが最小限で捌けるように慣れてきた颯来は、わざと腕を大きく動かし、大きく避けている様に見せる。
 必死の防御に見せかけ、米原に面打ちを誘う。
(いける)
 米原は押し切れると確信した。打ち込みの速さには元々自信があった。それを四分間、打ち続けられるための努力を惜しまずやってきた。剣道こそ攻撃が最大の防御と成り得ると信じてやってきた。
(見ろ、俺は間違っちゃいなかった)

(打ち崩した、ここだ)
 米原は直感した。上下の高速コンビネーションで颯来の腕が下がる、胴を打ったその返す刀で面を打ち込む。
 がら空きのになった面に竹刀を打ち込むだけの作業のはずが、カシャシャッと竹刀同士が擦れる音と共に、自身の面が叩かれる嫌な感触を味わう。
「メンだー」
 白旗が一斉に上がる、決まったのは颯来の『面すり上げ面』。大歓声と共に城西高校はインターハイ出場に王手をかけた。
「未咲……まだこんな奴がいたのか」
 豊橋はずっと頭の上に被せたままで準備しておいた手拭いを、そっと外して自身の面の中に片付けた。
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