第34話

文字数 825文字

「ちはーッス」
 一礼して入る颯来。独特の臭いが立ち込めるのは剣道場ならではである。
「見学か?」
「いえ、入部希望ッス」
「じゃ、これ書いて明日持ってきて。どこ中だ?」
「城山中ッス」
「ふーん……名前は?」
『城山中なんて知らないな』と言った感じ、いや『興味ない』に限りなく近い。
「未咲……だよな……?」
 後ろから口を出す奴がいる。呼ばれて振り向く颯来、その顔は驚きに変わる。そこには白銅中の千城がいた。


「あれ! えっと……おま、君は!」
「やっぱり、未咲か」
「えっと……何でお前がここに居んだよ」
 千城の笑顔に対し、颯来は眉を顰める。
「何だよ、その顔は?」
「まさかお前と、君と同じ高校とはね」
「お前と君?」
「……」
「高校で俺を倒そうとでも思ってた?」
「あームカつく! その『お前より強い』って感じ」
 颯来は正直に悔しがって見せる。
「いいね、その素直なリアクション」
「……ニャロ」
「未咲、お前、俺の名前覚えてる?」
「当たり前だろ、俺に勝った、いやちょっと強い奴」
「名前……読めないんだろ?」
「うっ……ち? せん、しろ?」
「千城武彦〔せんじょう たけひこ〕、よろしくな」

「颯来、手続き終わった?」
 そこへ愉香が現れる。馴れ馴れしく声を掛けてしまった愉香が千城の存在に気付いて襟を正す。
「まだだよ」
 不機嫌に答える。
「……女子部希望?」
「あ、いえ……。じゃ、颯来、外で待ってるね」
「……アホか千城、ここ女子部なんてないだろ」
「じゃあ未咲、今の子は? もしかして?」
「何だ? 武彦君……ひひ……じゃあな」
「待て待て。そうなのか?」
「何、君、イケメンなのにウブナノネ」
 意地の悪い笑いが止まらない。
「おい、一年。そこ空けろよ」
 受付の先輩が睨んでいる。
「ちょっと有名だからって調子に乗んなよ、千城」
 先輩から『出る杭は早めに打っておく』的な警告を受け取る。
「あ、すーません」
 颯来は好印象の他ない千城とのファーストコンタクトに、この城西高校での学校生活の手応えを感じた。
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