第48話

文字数 500文字

「二本目」
 開始線から再開される。
 菱木は逸る気持ちを抑え、我慢して間合いを測る。先程と同じ展開だが、うかつに飛び出すことは千城の思う壺である。
 時間だけが経過する、それを嫌った菱木は千城を誘う。剣先を緩め、隙を作る。
 あろうことか千城ほどの実力者が簡単に釣られて遠間から面打ちに飛び込む。
 菱木は返し技にも自信がある。前のめりに右足にかけていた重心を左足に移して、千城との距離を離す。千城の面打ちを空振りさせ、そのまま下がりながら面打ちを繰り出す。

(何故だ? 何故お前はそんなところに居る?)
 菱木の引き面は空を切っていた。遠間から思いっきり飛び込んできたはずの千城。菱木が下がりながら放つ間合いこそが竹刀の有効打突部であったはず。
 千城はバスケットシューズを履いているが如く止まった。そして菱木の面打ちをミリ単位で見切ったかのように、鼻先で躱すとすかさず追い打ち面を放つ。


「勝負あり」
 すさまじい歓声が巻き起こるのは城西。次鋒の一本負けを見事に倍返ししたのだ。一勝一敗だが波は大きく城西に流れ出した。
「後よろしく」
(できるか? あれが俺に……)
 すれ違う千城と颯来。颯来は瞬間、汗が冷たく感じた。
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