第147話

文字数 480文字

(我慢だ、我慢しろ)
 千城の鋭い目に負けて飛び出したら負けである。強気の間合い、竹刀の中結い同士が触れ合う圏内、すなわち千城の得意な距離、このプレッシャーに耐え切れず動けば思う壺である。
(颯来め、ずいぶん心を鍛えたじゃないか)
 千城は颯来が返し技の名手であることを承知で攻める。我慢できるようになったのなら、仕掛けてくることはほぼない。

 攻める千城、返す颯来。形的に優位なはずの颯来だが決められない。千城は颯来の返し技が読めている、颯来が意表を突いたつもりでも、剣道の返し技のパターンは多くない。千城は大方を予測し、その身体能力によって躱してしまう。

 現代剣道の実戦との違いとでも言うべきか、型がある程度しっかりしていないと一本ではない。気、剣、体が一致していなければならないのだ。つまり、ある程度出せる技が体勢によって決まってくる、というわけである。競技である以上ルールが必要なので仕方ない、『振り回した方が強い』であっては競う意味がない。


「止め」
 四分が過ぎた。
「引き分け」
 主審の合図で一旦竹刀を収める。一分間空けて延長戦である。女子の方も延長戦らしい。
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