第132話

文字数 631文字

 このプレーがさらに更科高校ナインを緊張させてしまう。雨が強くなってきた。ロージンバックを何度も手にする里見を見て、ファーストの彼方がマウンドに向かう。慌ててタイムを申告して伝令を出す更科高校ベンチ。
「……何だよ彼方、珍しいじゃんかよ、マウンドに来るなんて」
「まぁ……」
 伝令と内野陣が集まってくる。
「十回表、うちは一番から。裏は向こうが二番からになります、ここでしっかり切りましょう。里見さん、ピッチングは悪くないですから」
 急遽タイムを取った監督からの伝令は内容なんてなかった。指示を見込んで集まった内野陣も言葉が出ない。
「何だよ、それ。当たり前じゃん、ノーヒットノーランだよ、俺のピッチングが悪いわけないじゃん」
「そう、そうだよな、里見のピッチング良いよ」
「ナイスピッチだ、自信もっていこう」
 里見自身の言葉が皆を動かす。繕うように里見のモチベーションを上げる言葉を投げる。
「みんなも用が無いんなら散った、散った」
 里見が皆を追い返す、マウンドは俺だけの物だ、とばかりに。
「おい……手前味噌だな」
「はぁ?」
 彼方だけが意味不明な言葉を残していった。
(アイツ、結局何しに来たんだ?)


 この『間』が功を奏して里見の、守備陣の嫌な空気を洗った。換気されたいつもの雰囲気は、大城学園の勢いを止めるにはおつりが来るほどに、里見の気迫の籠ったピッチングを呼び戻した。
 この試合、数度目の雨が止む。春原を味方するためなのか、里見の気迫がそうさせたのか、延長戦に突入する。
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