第59話

文字数 615文字

『ッキーン』
 快音を響かせるバット、ボールの行方は見守る必要もなくバックスクリーンへ。
 試合中盤の良いところでの追加点となってしまったのは、ソロホームランの一点以上の重みである。
 続く五番打者にもヒットを打たれ、後の無い大城学園はエース丸田を諦め、ピッチャー交代を告げる。丸田は六回、ワンアウトも取れず無念の降板となった。

(俺ならどう声を掛けるか……)
 バッテリーは三年同士、もしこの試合に勝てたなら準決勝、決勝と投げねばならないはず、エースなのだから。
 女房役のキャッチャーは、現在、この試合だけを凌げれば良いわけではない。望未はマウンドを降りねばならないエースへの言葉を考えるよりも、呼ばれたピッチャーに興奮してしまう。望未がブルペン捕手を務めていた春原が呼ばれたのだ。
「里見さん、流石だよな」
「知り合いだったのか?」
 望未は驚く。
「中学軟式野球じゃなくってシニアで話したことがあるだけ、ただの顔見知り」
「対戦は?」
「ないよ、投げ合うのは初めてだ」
「負けんなよ」
「ん、行ってくる」
 望未は自分の登板ではないにもかかわらず、武者震いする。丸田の時以上に真剣に『配球』、『リード』にのめり込む。

 幸いなことに春原と望未は馬が合った。望未はピッチャーとしてベンチ入りしておきながら、春原のキャッチャーとして野球談議に花を咲かせてきた。春原対彼方、望未が意識するのも無理はない。春原も里見と投げ合うことで珍しくその闘志が表に出ている。
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