第63話

文字数 929文字

 少し風は強いが快晴の日曜日。
「お姉ーちゃん、デートでしょ」
「うっさいわね、違うわよ」
「そんな短いスカートはいて?」
「え? おかしいかな?」
 愉香は鏡の前に急ぐと、前から後ろから映し出される自分を何度も見る。
「ストッキングなんて脱いじゃいなよ」
「だって……」
「男は生足が好きなのよ」
 小六の妹に言われるままストッキングを取ると再び鏡の前でチェックする。
「ね、そっちの方が断然イケてる。色っぽいよ」
「……マセガキめ」
 短めのスカートから、なまめかしい足が伸びている、愉香もまんざらではない。
「愉香ぁ、颯来君来たわよ」
 店の方から呼ぶ声がする。
「はーい、今行く」
「え? お姉ちゃん、デートの相手、颯来君なの?」
「だから、デートじゃないわよ」
 そう言うと愉香は急いで出て行った。
「ふーん……」
 やけに上機嫌に見える愉香の後ろ姿を、妹は由ありげに見送った。

「颯来、ごめん、お待たせ」
「あれ、愉香」
 愉香の母は愉香を見て、颯来を見る。
「なんだい、デートだったの。颯来君いつもの恰好だったから、てっきり……」
「もう、違うわよ、お母さんまで」
「はいはい、気を付けて行ってらっしゃい」
「行こ、颯来」
「じゃ、いってきまーす」
 そう言って颯来が愉香に続いて出ようとすると、
「遥ちゃんには内緒にしとくね!?」
 愉香の母は颯来の袖を引っ張り、愉香に聞こえないように囁いた。

 駅に向かう道を並んで歩きだす。
「きゃっ」
 いたずらな風が愉香のスカートをめくり上げる。
「……ピンク……」
「……見たなぁ」
 愉香が恥ずかしさで、ふくれ顔をする。
「見えたんだよ、見えちゃったの」
 慌てる颯来を眉をひそめたまま見つめる愉香。
「なんでそんな服着てんだよ」
「だって……」
「あ、まぁ、たまにはこういうのも良いよな」
「おかしい?」
「え? いや、似合ってる、うん、とっても」
「ホント?」
「ホントホント」
「さっきからそっぽ向いてばっかじゃん、風吹いた時以外……」
「そりゃ……」
 颯来は店の奥から出てきた時から、愉香の姿をまともに見れていなかった。愉香にそう言われると照れて、いつも通りに話せなかった。話題を必死に探す。
「……『てっきり』の後はなんて言うつもりだったんだろな、お母さん」
「……そうね、なんだろ?」
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