第102話

文字数 505文字

 対坂月中の敗戦の後、望未がさっさと帰った理由は悔しさや怒りではない。
「敗者がいつまでも居てはいけないと思うんだ、俺」
 颯来の誤解を解くために説明する望未。
「ま、その後の試合を観戦するとかなら良いんだけど、そこで負けた者が悔しくて泣いてたり、次へのバネとするべく決意したりしたくないんだ」
 そんな感動のシーンは主人公側にはつきものだけど、主人公が勝ち進んでいる時、負けた相手のそんな場面は切り捨てられる。
 いつだって勝った方がいれば負けた側がある。
「負けた主人公は、次勝つかもしれないけど、今日勝った奴がやっぱり主人公なんだ。あそこでお涙頂戴やってたら勝った奴らに笑われちまう」


 二人はその日、それぞれの物語でハッピーエンドの主人公となるべく約束を交わす。それは、
『挫けないこと』
 未来の自分を助けることができるのは『今』の自分だから。挫けそうになったら励まし合おう、と。


***


 主人公は勝ち進む。『次に勝つ、今回は負けた主人公』なんてまっぴらごめんである。
(どうであれ、勝ったんだ。胸を張らなきゃ負けた奴らに悪い……ただ、次は同じ様にはしない)
 望未はそう決意しながら、あの時の颯来の顔を思い出して微笑んだ。
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