第59話

文字数 590文字

 そして僕に背を向けて、大きな銀色のボウルを木の棚から取り出したので謝りそびれてしまった。そして冷蔵庫の野菜室の中と家に併設してある小屋へ行き、腕に抱えたボウルに野菜を入れて持ってきてくれた。

 「玉ねぎもありますか?」

 「はい! でももし中の方が黒くなっていたら、取ってください」

 といって、小さめの玉ねぎを二つ、渡してくれた。
 受け取った玉ねぎは薄くスライスして、水にさらしておく。すごくよく切れる包丁だ。

 (この包丁で何を切っているんだろう……。)

 鹿が逆さまに吊るされている映像が、あぶくのようにいくつも頭に浮かぶ。

 (ひーっ! 動物を(さば)くなら、専門の包丁があるはずだ。普通の包丁では捌かないって)

 乱れた心でよく切れる包丁を扱うのは危ない。僕は包丁をまな板の上に置くと、ルッコラを流水で洗った。それから手でちぎり、ザルに入れる。ミニトマトも半分に切って、簡単に種を取っておく。

 「ベーコンはありますか?」

 「あります!」

 杏さんは冷蔵庫から薄切りのベーコンを出してくれた。ベーコンを細切りにしていると、

 「フライパンは使いますか?」

 と二十センチ程の小さめのフライパンを出してくれた。ベーコンを炒めるのに使うと思って気をきかせてくれたのだろう。僕は杏さんも料理をよくするんだな、と思った。
 受け取ったフライパンに、刻んだベーコンを入れて、カリカリに炒める。

 「いい匂いー」
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