第78話

文字数 487文字

 私がどうしたいか、なのよね。彼のせいにして、私には選択肢がないんだって言い訳していただけなんだよ。」

 杏さんに、というより、自分に向けて話しているのかもしれない。渚さんは息を吐き出した。そしていつもの頼もしい顔に戻って笑った。

「アプリコットコーヒー、ください。ホットで。」
 
 渚さんはカウンターの中の僕に声をかけた。僕は頷いてみせて、オーダーが通ったことを無言で知らせる。そしてアプリコットコーヒーの支度にかかった。

 「彼にね、選択肢があると思っていたの。だからどうするの、どうするの? って聞いたりしていたんだけど、彼がどんな選択をするかじゃない。私が何を選択するか、ってことを考えなきゃね。」

 渚さんは指でメニューを狙い撃ちした。

 「パンッ。……って撃っちゃうのか、罠をかけて捕まえるのか、金網を建てるのか。何かするのもしないのも、いつするかも。」

 「農業と同じですね」

 「うん。同じだった。違うと思ってたけど、同じだった」

 僕はアプリコットコーヒーを渚さんの前に置く。

 「アプリコットコーヒーです。こちらは、先日クッキーのモニターをしていただいたお礼です。」

    
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