第74話

文字数 557文字

 「ほんと、お願いよ。杏さんとデザインカプチーノが見たかったの、私も。ね、マスター、それでオーダー通して。絵柄はおまかせで」

 最後の部分はテーブルの横で立っていた僕に向かって渚さんは言った。渚さんに頷き返して、杏さんにもちょっと頭を下げてからカウンターに早足で戻った。
 
 「杏さん」

 渚さんは杏さんと何の話をするんだろう。僕はカプチーノ用のカップを棚から出すと、さて何の絵柄にしようかと考える。

 コーヒー豆を挽き、小さなフィルターに入れる。トントンと側面を軽く叩いてならす。タンパーでギュッと粉を押しつけて平らにする。エスプレッソマシンを湯通しして、フィルターをセットする。
 体に染みついた手順だが、美味しく入れるためには、集中しなければならない。
 エスプレッソはすぐに出来上がる。考える時間はほとんどない。フォームミルクを流し込みカプチーノを仕上げる。あとは絵を描くだけだ。
 小さく渚さんと杏さんの会話が聞こえる。

 「獣害っていうんですってね。ひどかったの?」

「はい、今年は特に。猪が里芋とか色々、掘り返して食べちゃって」

「そうなの。どうするの?」

 「食べられちゃった分は、どうにもなりませんねぇ。フェンスを取り付けたので、これから収穫する分は大丈夫だと思います」

 「台風も、今年は多かったんでしょう?」

    
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み