第44話

文字数 533文字

 「農薬使ってないし、質もいいから美味しいんだろうなあ。猪の被害がけっこうひどいみたいだ。だからしばらくの間はモーニングファームに野菜を卸さずに、獣害対策するらしい」

 蒔田は珈琲に砂糖とミルクを入れて、グルグルかき混ぜ、一口飲んだ。

 「美味い」

 カップをひょいっと持ち上げて、空中で僕に乾杯を送る。
 そうだよなあ。杏さんも、コーヒーに砂糖とミルクを入れればいいのに、と僕は思う。

 杏さんは相席する人がいないときは、やはりいつもブレンド珈琲を頼み、ブラックで飲んでは、「苦っ」という顔をする。
 蒔田の声が遠くから聞こえてきた。

 「……いいか?」

 「何だ?」 

 「なんだよ、聞いてなかったのか? だから、杏さんは獣害対策で忙しいだろうから、様子を見がてら、食事を届けてあげたいんだよ。今度の日曜日。サンドイッチと珈琲、持ち帰りで用意してくれよ。」

 (イヤだ)

 と即答したかったが、杏さんがお腹を空かしているなら、美味しい物を食べさせてあげたいという気持ちが(まさ)った。蒔田にだけいい顔させるのは悔しかったが、僕はため息をつきつつ、

 「日曜日は休みなんだよ。割り増し料金を請求するからな」

 と答えていた。

 「何時に持っていく?」

 「十時がいいかな」

 「十時? 了解!」

    
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