第35話
文字数 515文字
瞳さんはひと息に話した。小さな声で音楽も流れているのに、瞳さんの声は僕にも届いた。
「はい」
杏さんはこくりと肯いた。
瞳さんは口に出してしまうと、急に大人びた微笑みを浮かべた。
確かに瞳さんは笑ったのに、目から涙がポロッと落ちた。
僕はくるりと二人に背を向けて、棚に磨いたグラスを仕舞った。見ないようにしたのに、瞳さんが手を膝の上で固く握りしめて、声を立てずにパタパタパタッと涙をこぼしているのを、僕は背中で感じた。
もう棚に仕舞う物も、出す物もなくなった。音の消えた二人のテーブルを、僕は見ずにはいられなかった。
瞳さんは固く目をつぶっていた。曲が替わり、小野リサが歌うボサノバが流れはじめると、瞳さんはそっと目を開けた。もう涙はこぼれていなかったので、僕はほっとした。
テーブルの上に置かれたフレッシュミックスジュースのグラスを、瞳さんはグッと掴むと、ストローは使わずにグッグッと喉を鳴らして黄緑色のジュースを喉に流し込んだ。
「素材丸ごとの味がします。全身にしみわたるみたい…」
呟くように瞳さんは言った。それから今度はゆっくり、フレッシュジュースを口に含んでからゴクン、と飲み込んだ。
「あー! 美味しいっ。」
「はい」
杏さんはこくりと肯いた。
瞳さんは口に出してしまうと、急に大人びた微笑みを浮かべた。
確かに瞳さんは笑ったのに、目から涙がポロッと落ちた。
僕はくるりと二人に背を向けて、棚に磨いたグラスを仕舞った。見ないようにしたのに、瞳さんが手を膝の上で固く握りしめて、声を立てずにパタパタパタッと涙をこぼしているのを、僕は背中で感じた。
もう棚に仕舞う物も、出す物もなくなった。音の消えた二人のテーブルを、僕は見ずにはいられなかった。
瞳さんは固く目をつぶっていた。曲が替わり、小野リサが歌うボサノバが流れはじめると、瞳さんはそっと目を開けた。もう涙はこぼれていなかったので、僕はほっとした。
テーブルの上に置かれたフレッシュミックスジュースのグラスを、瞳さんはグッと掴むと、ストローは使わずにグッグッと喉を鳴らして黄緑色のジュースを喉に流し込んだ。
「素材丸ごとの味がします。全身にしみわたるみたい…」
呟くように瞳さんは言った。それから今度はゆっくり、フレッシュジュースを口に含んでからゴクン、と飲み込んだ。
「あー! 美味しいっ。」