第36話
文字数 528文字
瞳さんは杏さんに宣言するよう言った。そして頬に残った涙の雫を、テーブルに立てて置いてある紙ナプキンで拭った。
「杏さん。私、今度はジビエな恋をします」
「ジビエ、ですか?」
「はい。彼はいつも優しかったし、仕事も助けてくれました。誕生日にもクリスマスにも、プレゼントをくれました。私を好きだと言ってくれたのも、ウソではなかったと思います。
でも彼は私の方には顔だけ向けていて、体はソッポを向いているような、そんな気がいつもしていました。私、彼が体を向けている方、彼の家族をいつも感じてた。悪いなあって思っていたし、いつも何か責められているような感じが心のどこかを占めていて。そういうのって、青虫が私の心を食い荒らしているような感じなんです。もうやめなきゃ。
だから、次にする恋は丸ごと全部な恋にします。私が全部で、好きになれる人。私を全部で好きになってくれる人。
そんなジビエな恋をしますね、私。」
そう言うと瞳さんの目にはまた涙がにじんだけれど、すぐに消えた。そして杏さんに笑いかけた。
心配そうに見守っていた杏さんは、ほんのすこしだけ唇に微笑みをのせて、そっとカプチーノのカップを両手で包み込んで、縁 からそっと飲んだ。
「杏さん、ありがとう」
「杏さん。私、今度はジビエな恋をします」
「ジビエ、ですか?」
「はい。彼はいつも優しかったし、仕事も助けてくれました。誕生日にもクリスマスにも、プレゼントをくれました。私を好きだと言ってくれたのも、ウソではなかったと思います。
でも彼は私の方には顔だけ向けていて、体はソッポを向いているような、そんな気がいつもしていました。私、彼が体を向けている方、彼の家族をいつも感じてた。悪いなあって思っていたし、いつも何か責められているような感じが心のどこかを占めていて。そういうのって、青虫が私の心を食い荒らしているような感じなんです。もうやめなきゃ。
だから、次にする恋は丸ごと全部な恋にします。私が全部で、好きになれる人。私を全部で好きになってくれる人。
そんなジビエな恋をしますね、私。」
そう言うと瞳さんの目にはまた涙がにじんだけれど、すぐに消えた。そして杏さんに笑いかけた。
心配そうに見守っていた杏さんは、ほんのすこしだけ唇に微笑みをのせて、そっとカプチーノのカップを両手で包み込んで、
「杏さん、ありがとう」