第7話

文字数 575文字

 グラスを白い洗いざらしの布巾でキュッキュッと磨きながら僕は物思いにふけった。彼女は一体、何をしている人なのだろう?

 「キャーッ!」

 突然、店の外から悲鳴が聞こえた。硝子窓に目を向けると悲鳴を上げた女性は、お店のすぐ前に立っていた。
 慌ててグラスを置いて外に出てみると、七十センチ程の赤っぽい色の蛇が一匹、ドアの横の植え込みにヌルンとしていた。

 (なぜこんな都会に?)

 生まれて初めて見る、生きている蛇を前にどうしたらいいのか僕は困惑した。

 (蛇をこのままにしておいていいのだろうか? もし蛇が誰かを噛んでしまったら、責任問題になるのだろうか? いやいや、責任云々というよりも、お客様や通行人の皆様を怖がらせるのはよくないだろう)

 蛇を見ながらグルグル考える。蛇を目の前にして、内心の動揺にはただならないものがあったのだが、カフェのマスターたるもの、動揺を見せるわけにはいかない。
 片足に重心をかけ、腕を組んで、顎に手をやって考えている様子は、はたから見れば理知的に見えるはずだとドキドキしている自分に言い聞かせる。例え胸の中は乱れまくっているとしても、落ち着いて行動しなければ。

 (あ。そうだ、警察か保健所に電話で連絡すればいいんだ!)と、ようやく思い至り、スマートフォンを探ろうと手をポケットに突っ込んだ時、誰かが僕の横を走ってすり抜けていった。
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