第3話

文字数 657文字

 エスペランサの看板メニューは、美味しいラテやフレッシュなオーガニック野菜がたっぷりのサンドイッチ。だけどやっぱり一番は、フォームミルクに絵が描かれているデザインカプチーノだ。カプチーノの上に乗せたフォームミルクに絵を描くときに、ドキマギして手が震えていたら商売にならない。いつだって最初に埋まるのは目の前で絵が描かれるカウンター席なのだから、見つめられるのは僕の日常だ。

 では彼女が変わった言動を取るのか、というとそれも違う。むしろ控え目で、あえて目立たないように振舞っているのでは、と思うほどだ。

 それなのに。
 時に自慢のポーカーフェイスが崩れてしまう程、どうしても彼女の事が気になって仕方がない。彼女は「ビックリ箱ですよ」と告げられて手渡された箱のようなものだ。

が飛び出してくるのは分かっているのに、開けたくて仕方なくなる。

 もうすぐ彼女はやってくる。店内に入ってくると、カウンターの一番近くにある二人がけの丸いテーブルに腰かけるだろう。いつもそうだから。そしてその姿はどう見てもエスペランサになじんでいない。
 スーツにパンプスの女性ばかりの中で、彼女の着ている古びたオーバーオールは目立つのを通り越している。それは雰囲気をこわさないでとばかりに、他の女性客のトゲトゲしい視線を浴びてしまう程で、初めのうち僕はハラハラしてしまったものだ。

 しかし一旦は「キッ」っと音まで聞こえそうな視線を投げかけた女性客の誰もが、一瞬の後に怪訝そうな顔になり、そーっと視線を逸らすのも、またいつものことだった。
    
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