第25話

文字数 587文字

 あれは自分の卸した野菜の味が気になっていたからではないだろうか。僕をチラチラと見ていたのも、おそらく自分の野菜がどのように調理されるのかを気にしていたせいだったのだ。僕が勧めてもミックスフレッシュジュースを自分では飲まなかったのは、他のお客様に飲んで欲しかったからではないだろうか? 

 もしかすると苦い珈琲にミルクも砂糖も入れないのは、おそらくコーヒー豆の味を確かめていたのかもしれない! そう思い至り、蒔田に聞く。

 「杏さん、コーヒー豆も作っているのか?」

 「いや、知ってるだろ? コーヒー豆は小笠原諸島とか沖縄じゃないと出来ないから。ウチでは日本産の豆は仕入れてない。杏さんもコーヒー豆は作ってないよ」

 「あ、そう、か。」

 (じゃあなぜ、珈琲にミルクも砂糖も入れないのだろう?)

 残った疑問が頭の中に渦巻いて、次に杏さんが来店する日がもう待ち遠しくなった。
 
 「なあ、惣一郎。杏さん、よくエスペランサに来るのか? 次はいつ来るんだろう」

 「え……」

 「杏さんに会いたいんだよー。教えてくれよ」

 「お客様のプライバシーはお答え出来ません」

 首をすくめてクールに断る。 
 「大体、杏さんは(くつろ)ぎに来るんだよ。蒔田が仕事の話なんかしたら、気が休まらないだろ」

 僕が冷たく言い放ったのは、モテる男の代名詞のような蒔田に杏さんを会わせたくなかったからでは……、けしてない、はずだ。
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