第60話

文字数 557文字

 杏さんは目をつぶって香りをかいだ。エスペランサにいるときよりも、肩の力が抜けている杏さんを横目で盗み見た。今この瞬間は僕だけが見ている杏さんだ。

 「野菜はよく水を切った方が美味しいんだけどな」

 ついうわの空になって独り言を言っていた。

 「あっ、そうですね。じゃあ私、水をきりますね!」

 僕の独り言を拾って、杏さんは洗った野菜が入っているザルにボールを逆さまに被せ、キッチンの流しの中でザッザッとふるって水を切った。さらしてある玉ねぎも水からすくい上げて、キッチンペーパーに挟んで水をきる。

 杏さんが野菜の水を切っている間に、小さなガラスのボールに醤油とお酢を入れて合わせた。店では酢の代わりにホワイトバルサミコを使っているが、酢でも美味しいから問題ない。そこにオリーブオイルを細く垂らしながら手早く混ぜて乳化させ、トロリとなったところで味をみて、胡椒(こしょう)を少しふる。

 うまく乳化させるコツは、少しずつ油分を足すことと、器の手前の方で小さく左右に混ぜることだ。液体が対流する入り口を作ってやると、きれいに混ざる。これでドレッシングは完成だ。
 ルッコラと玉ねぎ、ミニトマトを大きめの木の鉢に入れて、手で下からひっくり返すようにして合わせる。そこにドレッシングを回しかけて、菜箸(さいばし)で上下をかえすように味をなじませる。
    
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