第87話

文字数 473文字

 (花の次はプレゼントか。蒔田、やりすぎだろう)

 と僕は思った。ちょっと気になる程度の女性に手を抜かないやつだ。それでも何をプレゼントしたのかは気になるので、グラスを手に取って磨きながらガラス越しに二人を見る。

 「えっ! いただけませんよ。この前もお花をいただきましたし、お昼の差し入れも」

 杏さんは箱を蒔田の前に押し戻した。

 「気にしていただくほどのものではないですから。それに私はこれ、使えないのでもらってください。杏さんがもらってくれないと、行き場がなくなっちゃうんです」

 蒔田は箱を杏さんの方へ滑らせた。沈黙が漂う。無理に笑みを作っているのか、蒔田の頬に力が入っている。杏さんがそっと箱を手に取ると、蒔田はあきらかにほっとした顔になり、つめていた息を大きく吐いた。

 「よかったー!」

 とたんに顔をくずして破顔する。

 (なんだ、そのかわいい顔は。蒔田のそんな素直な顔、僕だって最近見てなかったぞ)

 僕は棚からグラスを取り出した。キュッキュッと音を立てて白い布巾で磨く。それなのに、どうしてもくもりが取れなくて、視線をあげてしまった。

    
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