第5話

文字数 569文字

 彼女は両手で包み込むようにして、ぎこちなくカップを持つ。万が一にも落としたりしてはいけないと思っているようだ。しかしコーヒーカップは両手で包み込むようにして持つようには出来ていない。だから彼女はカップが持てる位になるまで、珈琲が冷めるのを待っている。
 コーヒーを飲むことに不慣れなのは、まあ百歩譲ってわかるとしても、何回目になっても珈琲に口をつけると、(苦っ)という顔をする。それなのにいつも、ミルクも砂糖も入れずに飲む。

 (ラテやカフェオレみたいなミルクたっぷりの珈琲にすれば、苦みも少ないのに。もしくはいっそのこと、フレッシュジュースだって置いてあるのに)

 だからオーバーオールの彼女に、今日もメニューを差し出した。

 (もしかしたら今日は他の物を頼むかもしれない)という期待を込めて、ポーカーフェイスをよそおいつつ、テーブルにおいたメニューをめくってみせる。

 僕は美味しく飲んだり食べたりして欲しい。そのためなら疲れた職業戦士の女性達の目の保養になるべく努力して雰囲気紳士を気取り、リラックスしてもらうのだって仕事の一環だと思っている位だ。エスペランサはカフェだが無理してコーヒーを飲まなくてもいいのだ。

 「今日は美味しいフルーツが入荷したので、ブルーベリースムージーなどもオススメですよ」

 と丁寧に写真まで示して紹介する。
    
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