第68話
文字数 569文字
蒔田はおもむろにメニューをテーブルに置く。看板と同じデザインアルファベットでエスペランサと描いてあるメニューの表紙をゆっくり開く。(サッと開け!)と僕は心の中で毒づく。
蒔田はメニューに視線を走らせると、眉をちょっと上げた。
「ブレンド、キャンセル。この、新メニューのアプリコットコーヒーで」
『アプリコット』のところだけ、ほんの少しだけ力を入れて発音した。
蒔田……。お前が女性に向ける優しさの欠片でいいから、僕にも分けてくれよ。今日くらいは気が付かないふりをしておくという気づかいはできないのか。
蒔田はメニューを閉じると、今度は押し付けるように僕に渡し、体ごと杏さんの方に向き直った。僕との会話はもう終わり、そういうことのようだ。カウンターの中に戻るしかなかった。
「ええと。罠猟の資格の話でしたね。罠に獲物がかかったら、府川さんが撃ちに来てくれるとか言っていましたよね」
府川さんとは、モーニングファームに野菜を卸している農家の人で、蒔田と杏さんの共通の知り合いらしい。
「はい。猟銃となると、また資格が別なので。獲物がかかったら連絡すればいいから、と言ってくれました。撃つところも見なくていいし、捌くのもやるよって。血抜きが終わったら、肉を取りにくればいいし、欲しかったら毛皮とか猪の牙はあげるって」
「至れり尽くせりですね」
蒔田はメニューに視線を走らせると、眉をちょっと上げた。
「ブレンド、キャンセル。この、新メニューのアプリコットコーヒーで」
『アプリコット』のところだけ、ほんの少しだけ力を入れて発音した。
蒔田……。お前が女性に向ける優しさの欠片でいいから、僕にも分けてくれよ。今日くらいは気が付かないふりをしておくという気づかいはできないのか。
蒔田はメニューを閉じると、今度は押し付けるように僕に渡し、体ごと杏さんの方に向き直った。僕との会話はもう終わり、そういうことのようだ。カウンターの中に戻るしかなかった。
「ええと。罠猟の資格の話でしたね。罠に獲物がかかったら、府川さんが撃ちに来てくれるとか言っていましたよね」
府川さんとは、モーニングファームに野菜を卸している農家の人で、蒔田と杏さんの共通の知り合いらしい。
「はい。猟銃となると、また資格が別なので。獲物がかかったら連絡すればいいから、と言ってくれました。撃つところも見なくていいし、捌くのもやるよって。血抜きが終わったら、肉を取りにくればいいし、欲しかったら毛皮とか猪の牙はあげるって」
「至れり尽くせりですね」