第43話

文字数 563文字

 渚さんに笑顔を向けると、渚さんは優秀な上司の顔をしていた。渚さんは僕に、杏さんの情報を蒔田から聞き出しておいて、と眼だけで雄弁に指示を出し、A4サイズの書類が入る黒い鞄を手に取って席を立った。

 「ありがとうございました」

 渚さんの背中に声をかける。カランカラン、と扉が閉まった。
 僕は淹れ立てのブレンド珈琲を蒔田の前に置いた。

 「杏さん、なんで今日来てないと思っていたんだ?」

 「あ、その理由、聞きたいか?」

 蒔田がニヤニヤする。もったいぶらずにさっさと言え、と言い放ちたいところだが、グッと我慢する。
 悔しいが喫茶店のマスターたるもの、店内ではポーカーフェイスは崩せない。それに杏さんへの気持ちをみすみすバラして、からかわれるような危険はおかせない。

 「いつも来てくださるお客様が来なかったら、気になるのは当然だろう」

 「面白くない奴だなあ」

 蒔田は目を細めて僕を見た。おそらく僕の心を見透かそうとしているのだろうが、そうは問屋が卸さない。

 「それで? モーニングファームで何か聞いてきたんだろう?」

 と蒔田に返事を催促する。

 「ジュウガイだよ」

 「銃?!」

 「バーン」 蒔田は指でピストルの形を作って僕を撃った。「こっちじゃなくて、獣害。ようするに野生の動物が作物を食べちゃうのさ」

 「杏さんのところの野菜も?」

    
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