第76話
文字数 537文字
渚さんと杏さんは、椅子から半分腰を浮かせ頭を突き合わせるようにして、カップの中を覗き込んだ。どちらからともなく視線を上げると、目と目の距離は十センチ位しかなかった。二人はお互いに自分の椅子に腰をおろして顔を見合わせると、一瞬おいてふきだした。
頬に笑いを残したまま、渚さんはフレッシュミックスジュースをひとくち飲んだ。
「ね、もうひとつの理由、よかったら教えて欲しいな」
「そうですねえ。たいした理由じゃないんですけど。なんでも自分で決められるから、ですね」
「自分で? でも……。決められないことの方が多いんじゃない? 台風とか天候とか、猪だって……。」
渚さんは手に持っていたグラスをテーブルにコトンと音を立てて置いた。いつもなら、音がしないようにソーサーの上に慎重に置くので、僕は顔をあげて渚さんを見た。渚さんが動揺するのは珍しい。杏さんは、そんなに驚くようなことを言っただろうか?
「それは相手がある仕事だったら何でもそうじゃないですか? 相手が人だったとしても、こちらが決めることはできませんよね。
農業は何をいつ植えるか、農薬をどのくらい使うのか。イノシシが出たら、どこまで対策をするか。自分で決められることはたくさんあるんですよ」
「そうね……」
頬に笑いを残したまま、渚さんはフレッシュミックスジュースをひとくち飲んだ。
「ね、もうひとつの理由、よかったら教えて欲しいな」
「そうですねえ。たいした理由じゃないんですけど。なんでも自分で決められるから、ですね」
「自分で? でも……。決められないことの方が多いんじゃない? 台風とか天候とか、猪だって……。」
渚さんは手に持っていたグラスをテーブルにコトンと音を立てて置いた。いつもなら、音がしないようにソーサーの上に慎重に置くので、僕は顔をあげて渚さんを見た。渚さんが動揺するのは珍しい。杏さんは、そんなに驚くようなことを言っただろうか?
「それは相手がある仕事だったら何でもそうじゃないですか? 相手が人だったとしても、こちらが決めることはできませんよね。
農業は何をいつ植えるか、農薬をどのくらい使うのか。イノシシが出たら、どこまで対策をするか。自分で決められることはたくさんあるんですよ」
「そうね……」