第10話
文字数 521文字
黒目の大きな彼女の瞳に、引き込まれそうになる。小さな唇は何かを問いかけるように、両端をキュッとあげて微笑みの形をつくっている。
「あの、あなたのお名前は……?」
ずっと聞きたかった事を聞いた。
とたんに黒い瞳がさらに大きく見開かれる。ビックリ! と顔に書いたみたいに分かりやすい。それから眉尻が下がって、ふっと目が細められた。
「杏 と書いて、あんって言います。玉城 杏です」
思わず無意識に握手の手を差し出してしまったが、一瞬の後に後悔した。
(彼女の両手は蛇をにぎっていたっけ……。)
けれど自分から差し出した手を、引っ込める訳にはいかない。男として。
それは確かにやせ我慢だった。
「ごめんなさい。私、蛇を触っちゃったから、マスターと握手してしまったら、他のお客様が気持ち悪いかもしれない」
杏さんは笑って言った。蛇を触った手に触れたくない、という僕の気持ちに気付いていたかもしれないが、気遣って体面を保てるような言い方をしてくれたのだろうと思った。
その瞬間、恋に落ちた。
文字通り、足元に人間の大きさのゴルフのホールのような穴があって、歩いていたら足からストン、と真っ直ぐに落っこちてはまったような、不意打ちの落ち方だった。
「あの、あなたのお名前は……?」
ずっと聞きたかった事を聞いた。
とたんに黒い瞳がさらに大きく見開かれる。ビックリ! と顔に書いたみたいに分かりやすい。それから眉尻が下がって、ふっと目が細められた。
「
思わず無意識に握手の手を差し出してしまったが、一瞬の後に後悔した。
(彼女の両手は蛇をにぎっていたっけ……。)
けれど自分から差し出した手を、引っ込める訳にはいかない。男として。
それは確かにやせ我慢だった。
「ごめんなさい。私、蛇を触っちゃったから、マスターと握手してしまったら、他のお客様が気持ち悪いかもしれない」
杏さんは笑って言った。蛇を触った手に触れたくない、という僕の気持ちに気付いていたかもしれないが、気遣って体面を保てるような言い方をしてくれたのだろうと思った。
その瞬間、恋に落ちた。
文字通り、足元に人間の大きさのゴルフのホールのような穴があって、歩いていたら足からストン、と真っ直ぐに落っこちてはまったような、不意打ちの落ち方だった。