第11話

文字数 485文字

 蛇を巾着袋に放り込んだそのすぐ後で、優しい気遣いを見せられて、僕の心は杏さんに鷲づかみにされてしまったのだ。

 「ジムグリっていうんですよ。この子」

 「え?」

 「この蛇のことです。可愛い顔しているんですよ。毒も持っていないし。ジムグリって、本当は地面に潜っていることが多いんです。暑いのが苦手で、涼しい山や川べりにいることが多いんです。地上にいるのも珍しいのに、どうしてこんな所にいたの……?」

 最後の部分は、巾着袋の中の蛇に向かって言った言葉のようだった。

 「ジムグリ」

 僕は杏の言葉を繰り返し、うん、とうなずいた。怖さ以外の感情が持てない蛇の話題に、他の言葉が見つけられなかったのだ。
 特に今この瞬間、恋に落ちた相手との初めての会話なのだから、なおさらのこと。

 「はいっ」

 黙ってしまった僕に、杏さんはグーに握った手を差し出した。
 
 (握手の代わりのグータッチ?)

 戸惑いながらも、グーにグーをトン、とあてた。
 杏さんは一瞬、また目を見開いて、それから笑い出した。

 「違いますよ。パーです。手のひらを上にして出してください」

 杏さんは笑いながら器用に言った。
    
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