第70話
文字数 601文字
蒔田が言う。さっそくカップを手に取って香りを吸い込んでから、ブラックのまま一口啜る。初めて飲む豆は、まずは砂糖やミルクを入れずに味を確かめるのは、蒔田のいつものルーチンだ。この瞬間、僕が試験を受けているような落ち着かない気分になるのもいつも同じだ。
本来ならコーヒーはもう提供したのだから、テーブルを立ち去るのが当たり前なのだが、つい側に立ったままジャッジを待ってしまう。
「旨い」
蒔田が言うのを聞いてから、少し早足でカウンターに戻る。テーブルをうかがっていると、ブラックのまま、コーヒーをさらに一口、飲んでいるところだった。
僕の視線に気が付くと、ニッと笑って大袈裟に親指をピッと立ててみせた。
「ハハッ」
どうやら合格点をもらえたようだ。杏さんもそーっとコーヒーに口を付ける。「苦っ」という顔の代わりに、ほんのりとした笑みを唇にのせて、ゆっくり啜 る。
「ね、マスター。マスターってば。」
渚さんの声で、現実に引き戻された。
「はい。なんでしょうか?」
「私にもアプリコットコーヒーちょうだい。杏さん、美味しそうに飲んでるよね」
渚さんは空になったフレッシュミックスジュースの細長いグラスを上からつかむようにして持ち、振り子のようにふりながら、杏さんと蒔田のテーブルの方を見るともなしに見ながら言った。
(あの二人、いい雰囲気じゃない?)
渚さんがそう言っているような気がして、胸がざわついた。
本来ならコーヒーはもう提供したのだから、テーブルを立ち去るのが当たり前なのだが、つい側に立ったままジャッジを待ってしまう。
「旨い」
蒔田が言うのを聞いてから、少し早足でカウンターに戻る。テーブルをうかがっていると、ブラックのまま、コーヒーをさらに一口、飲んでいるところだった。
僕の視線に気が付くと、ニッと笑って大袈裟に親指をピッと立ててみせた。
「ハハッ」
どうやら合格点をもらえたようだ。杏さんもそーっとコーヒーに口を付ける。「苦っ」という顔の代わりに、ほんのりとした笑みを唇にのせて、ゆっくり
「ね、マスター。マスターってば。」
渚さんの声で、現実に引き戻された。
「はい。なんでしょうか?」
「私にもアプリコットコーヒーちょうだい。杏さん、美味しそうに飲んでるよね」
渚さんは空になったフレッシュミックスジュースの細長いグラスを上からつかむようにして持ち、振り子のようにふりながら、杏さんと蒔田のテーブルの方を見るともなしに見ながら言った。
(あの二人、いい雰囲気じゃない?)
渚さんがそう言っているような気がして、胸がざわついた。