第64話

文字数 324文字

 「砂糖は入っていないんですよ。ブラックでも少し甘味を感じる豆なんです」

 サラッとなんでもないことのように言えただろうか?

 杏さんは、美味しそうにコーヒーを飲んだ。苦ッという顔はしていない。よかった。よし、これなら……。

 「このコーヒー、新しいメニューに加えようと思っているんです。」

 杏さん、なんて言うかな? 

 少し待ってみたが、杏さんは何も言わなかった。多分、聞こえなかったんだ。杏さんはコーヒーの香りをかいだり、美味しそうにマグカップを傾けたりするのに夢中だった。
 
 ふいにこのログハウスだけが、世界から切り取られているような感覚に包みこまれる。コーヒーの湯気で出来た雲の上にテーブルを広げ、二人で座ってお茶しているような、そんな気分だった。
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