第89話
文字数 378文字
蒔田はいたずらを見つけられた子供のように、困った顔をして瞳をぐるりと上に向けた。僕もオカリナの名前の由来が小さなガチョウという意味だということは知らなかったが、蒔田からもオカリナという単語をこれまでに聞いたことはない。大方、杏さんがオカリナを吹くと聞きつけて、付け焼刃でGoogleでも使ってオカリナについて調べただけに決まっている。
「今度、聴かせてくださいね」
両手の指先を合わせて、お祈りするような形で口元にあてて蒔田が言った。
オカリナに口を付けずに指だけで何かの曲を奏でていた杏さんは、半分上の空で「機会があれば」と答えていた。
(もしかしたら。もしかしたら蒔田は……?)
嬉しそうに緩んだ蒔田の頬に、その答えが浮かぶのを、僕はなんとも言えない気持ちで見つめた。そして杏さんがオカリナを吹く時には絶対に一緒に聴かせてもらおう、と密かに決意した。
「今度、聴かせてくださいね」
両手の指先を合わせて、お祈りするような形で口元にあてて蒔田が言った。
オカリナに口を付けずに指だけで何かの曲を奏でていた杏さんは、半分上の空で「機会があれば」と答えていた。
(もしかしたら。もしかしたら蒔田は……?)
嬉しそうに緩んだ蒔田の頬に、その答えが浮かぶのを、僕はなんとも言えない気持ちで見つめた。そして杏さんがオカリナを吹く時には絶対に一緒に聴かせてもらおう、と密かに決意した。