第52話

文字数 452文字

 だから杏さんはフェンスの設置に何日もかかってしまって、モーニングファームへもエスペランサへも、しばらく来られなかったのか。
 (言ってくれれば手伝いに来たのに)杏さんが僕に頼む訳がないのに、そう思ってしまった。
 蒔田は杏さんが大変だということを知っていたのだろうか? だからランチを届ける口実で手伝いに来るつもりだったのだろうか? 
 蒔田ならあり得るな。そして自分が行けなくなってしまったから、杏さんの手伝いをしそうな僕を代わりに杏さんの所へ行くように仕向けたのだろう。 蒔田には僕が杏さんに惹かれていることはバレている気がするし…。

 (ああッ、もう、なんだよ! この勝負、悔しいけど僕の負けだ)

 心の中でお手上げのポーズを取る。
 蒔田は僕に少し遅れを取ったとしても杏さんが助かればいい、と思ったに違いない。潔く認めよう。奴は気になる女性の幸せを何よりも優先する、カッコイイ女たらしだ。
 ……でも、と僕は心の中で念押しする。蒔田はまだ、杏さんをちょっといいな、という程度にしか思っていないはずだ。
    
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み